WORKS 開発事例

ロボット開発 2025.09.19

大阪・関西万博で実証へ：新型AIスーツケースのロボット開発に技術協力【ハードウェア編】

（2025年9月19日時点の記事です。）

当社では、日本科学未来館（以下、未来館）などが中心となり開発した、視覚障がい者向けナビゲーションロボット「AIスーツケース」の開発に携わっております。
新機能を搭載したAIスーツケース（以下、新型AIスーツケース）は、現在、大阪・関西万博にて実証実験が行われています。
※万博での実証実験に関する詳細は、こちらをご覧ください。
https://www.miraikan.jst.go.jp/news/general/202504113963.html

AIスーツケースについて

大阪・関西万博での実証実験について

開発における当社の関わり

当社は協力企業として、新型AIスーツケースの開発において、ハードウェア・ソフトウェア開発の技術協力として機体の製作を担当いたしました。

＜ハードウェア＞

以下は、新型AIスーツケースを構成する代表例であり、
これら全ての部品選定と必要な電子回路設計をはじめとしたハードウェア開発を行いました。
　
■ 　AIスーツケースが自身の位置を正確に把握し、周りの状況に合わせて安全なルートを選ぶための
　　「LiDAR （ライダー：Light Detection And Ranging）センサー」・「RGB-D（深度）カメラ」

■ 　屋外走行において、起動直後などのLiDARセンサーだけの測位では不十分な部分を補完するための
　　「RTK-GNSS（Real-Time Kinematic Global Navigation Satellite System：衛星測位対応アンテナ）」

■ 　画像処理をはじめとした、各種機能の膨大な量のデータを高速で処理が可能となる、
　　 「GPU（Graphics Processing Unit、画像処理装置）が組み込まれたコンピューター」

＜ソフトウェア＞

新型AIスーツケースが、人や障害物を避けながら目的地まで安全にユーザーを案内するための
ナビゲーション機能の精度向上に関するソフトウェア開発。（詳細については、ソフトウェア編の記事にて解説予定です。）

クフウシヤ内開発リーダーインタビュー＜ハード編＞

当社では、ハード・ソフト・電気の３チームに分かれて連携し、本プロジェクトに取り組みました。
３チームを束ねた当社の開発リーダーが、当社の取り組みを振り返りました。今回は、【ハードウェア編】となります。

「アイデア」を実装へ落とし込む

多くの「機能」を「限られたスペース」の中に実装するためには、多くの工夫が必要でした。
各機器の干渉を防ぎながら、排熱対策やケーブル1本毎の取り回しなども工夫する必要がありました。
また、様々な身長の方に利用いただくため、ハンドルの高さを変える機構におけるスペース確保にも配慮しました。

部品ひとつにも「意味」がある

新型AIスーツケースに搭載されている各部品は、単なる既製品の寄せ集めではありません。
使用環境やユーザー体験、見た目の統一感、それぞれに配慮した選定とカスタマイズがなされています。

例えば、「前輪のキャスター」です。

新型AIスーツケースを利用する方々が快適に歩行できるように、振動を軽減する仕組みにこだわりました。
キャスターを選定する上では、既製品のキャスターを解体することもありました。
安全性が求められる部品であることから、最も緩みにくい特殊なナットを選定し、走行中の緩み問題を解決しました。

特注品であるキャスター内のバネは、硬さや長さを変えて十何種類もの試作品を試験し、最終的な選定をしました。
時間は要しましたが、実際の利用者の快適性を高めるために追求した改良点の１つです。

他にも、操作用スマートフォンのケーブルが挙げられます。

見た目の整頓性と伸縮性を両立させるため、ストレート型や巻き取り型ではなく、「カールコード」を採用しています。
一見しては分かりにくいですが、当社のエンジニアは 「部品ひとつひとつにこだわり」を込めています。

また、既製品に頼れない細かな機構部品は、当社で保有している3Dプリンターで試作し、実装しています。
部品の選定・配置・見た目のすべてが、ユーザーの使い心地につながります。

デザイン性と機能性の両立

本プロジェクトでは、日本科学未来館様のプロダクトデザインへの大きなこだわりもございました。
プロダクトとしての美しさと、新型AIスーツケースとしての性能をどう両立させるかは、実用ロボット開発における挑戦でした。

新型AIスーツケースは、「ロボットっぽさ」を抑えた柔らかい外観を実現するために、グレーの布地を採用しました。
ただし、本体内部には排熱要件もあります。

日本科学未来館様を中心とし、「通気性・薄さ・強度・意匠性のすべてを満たす素材」を
プロジェクトメンバーとともに検討し、プロダクトとしての美しさと機能面の両立を目指しました。

クフウシヤは、「現場で使える両立設計」のため、見た目のデザインを妨げない形での機構設計にも取り組みます。

「色々な機能」を「決められたデザイン」の中に実装するのにも多くの工夫が必要でした。

大阪・関西万博での運用を通じて

新型AIスーツケースは、大阪・関西万博の会期中において、複数台が会場内で同時運用されています。
これは、実用スケールでのロボット稼働・ナビゲーション補正の課題抽出に繋がる貴重な機会と捉えています。
今後の実用化に繋がればと思っています。

技術検証から、社会実装まで。PoCの共創パートナーとして

クフウシヤは、技術にこだわり、実装まで伴走する開発パートナーです。
複雑な環境やハード/ソフトの協調開発が求められるPoCにおいても、社内実証の仕組みと設計・製作までを一貫して提供します。

大型プロジェクトでは、思い通りにいかないこともあります。
そんなときでも、明るく前向きに工夫して、お客様の次の一手をご提案いたします。